産業翻訳の品質について~第1回

品質の基本

皆さん、こんにちは!

この度、「産業翻訳の品質」についてご紹介させていただくことになりました有吉と申します。私の専門である産業分野における英日翻訳の品質管理の長年の経験から、お客様目線を中心に独自の認識や見解を述べさせていただきたいと思います。

まず初めに、産業翻訳で高い品質を維持するためには基本的に何が必要なのか?
大きく分けて4つの能力が必要です。

  1. 英語力
  2. 日本語力
  3. 技術力
  4. 翻訳力

上記が4拍子揃っていないと、翻訳品質に何らかの問題を抱える原因につながります。

英語力や日本語力は、翻訳者やチェッカーがネイティブスピーカーであればそれに越したことはありませんが、国や地域または言語間の文化的な背景など難解な表現の差異を除けば、常識的な範囲の正確な読解力で十分高い品質を維持することができると私は思います。

実はお客様が最も重視し期待している品質の根幹が「技術力」であることは、意外と見落とされています。ここで述べる技術力とは、翻訳プロセスを支援する「IT技術」と、翻訳者やチェッカーの持つ専門知識(つまり、「専門性」)の両方を指します。

翻訳プロセスを支援するIT技術について、シュタールグループは先駆者的な存在です。
特にTransit NXTのような翻訳支援ツールは、翻訳の生産性を飛躍的に向上させ、納期の短縮や品質向上にも大きく貢献しています。
> 翻訳メモリシステム Transit NXT

しかしながら、私のこれまでの経験上、「有効なツールがあっても、専門用語を集めて表記規則に従い原文の文法どおりに翻訳すれば、誰が翻訳しても大差ない」という専門性を半ば無視した残念な考え方が、一部のお客様や翻訳会社に見受けられます。そのような発想による訳文を技術文書として対象の読み手(専門の技術者や有資格者、メカニック、一般顧客などのエンドユーザー)が読めば、細かい専門的な技術表現に違和感を抱いてしまうことが少なくありません。それは顧客満足度に大きく影響します。

お客様は時間をかけて翻訳を査読し、技術者の立場でそれらの訳文に感じる違和感を具体的な校正内容として反映させます。

つまり、お客様は人間(翻訳者)の手による配慮の行き届いた「生きた翻訳」を期待して産業翻訳案件を発注し、その対価を翻訳会社に支払いたいのです。

お客様製品の専門知識のない人間が用語辞書のみに頼って訳出した翻訳や、機械翻訳によって出力された訳文をポストエディットで主な専門用語をただ置き換えただけのような翻訳の品質レベルは、果たして「生きた翻訳」と言えるのでしょうか。

仮にお客様が「生きた翻訳」ではない品質レベルに満足するならば、最終的にはお客様ご自身の手で機械翻訳ツールを使用して翻訳を出力するようになり、翻訳者や翻訳会社がいずれ不要になってしまうという危機感を皆でもっと共有すべきです。

したがって、翻訳従事者には、単に専門性だけでなく機械翻訳にはできない対応力(翻訳力)が求められ、今の時代では常に機械翻訳の上を行くきめ細やかな配慮という付加価値を付けながら高い品質に翻訳を仕上げる意識や意欲が大切なのです。

さらに専門性や翻訳力は高ければ高いほど、お客様と技術的に深いレベルで円滑な対話ができます。信頼関係が強固になる大きなメリットもあるため、お客様の製品分野の専門知識を持つスタッフを窓口にするのはとても有効な手段です。

専門性や翻訳力を養うには、お客様の製品技術に対する自らの興味や探究心、そして専門知識の習得や技術トレーニングへの参加など日々の勉強や努力の積み重ねが必要不可欠です。書籍やWebコンテンツ、セミナー、専門講座、翻訳学校等で学べることもあれば、現場でしか学べないことも沢山あります。

シュタールジャパンでは、特定の専門分野の翻訳時に役に立つ技術書をいくつか取り揃えています。
> シュタールジャパンの出版物

翻訳コーディネータ、翻訳者、チェッカーは、同じプロジェクトチームとして団結し、工夫を重ねてお客様からの品質に対する不安や懸念(校正箇所)をゼロにすることを粘り強く目指してください。そして、お客様の校正の負担を解放してあげてください。

次回は産業翻訳の各工程における品質向上のヒントをご紹介したいと思います。

お読みいただきありがとうございます。またお願いします!

株式会社シュタールジャパン
ローカリゼーションユニット
プロジェクトマネージャー
有吉 常徳

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