産業翻訳の品質について~第2回

産業翻訳の各工程における品質向上のヒント

皆さん、こんにちは!

当社のブログで「産業翻訳の品質」についてご紹介させていただいている有吉です。
前回は、産業翻訳で高い品質を維持するための基本となる4つの能力について、私の見解を述べさせていただきましたが、今回は産業翻訳の各工程における品質向上のヒントをご紹介させていただきたいと思います。

  • 翻訳コーディネータ(プロジェクトマネージャー)
  • 翻訳コーディネータは、新規翻訳案件であるか否かを問わず、必要に応じて参考資料の支給をお客様に対して積極的に要請します。さらに自身で原文を一読し、次に翻訳作業の助けになるコンテンツや参考文献があるかどうかを調べ、必ずそれらの情報を翻訳者へ的確に伝えます。これらすべては翻訳者目線で行うことが重要です。

    新規翻訳案件でお客様から辞書の支給が見込めない時に、翻訳のキーとなる専門用語を原文からあらかじめピックアップして仮訳を入れ、翻訳開始前にお客様に確認していただくことが品質向上の助けになる場合もありますが、最後は専門知識を持つチェッカーによる訳文全体の確認と仕上げが必須なのは述べるまでもありません。

    翻訳コーディネータは、翻訳者が翻訳案件の専門性に該当するかどうかの有無、翻訳の精度やスピードを考慮しながら翻訳コストを検討します。依頼する翻訳者については、必ず事前にチェッカーと相談の上で決定してください。

    納期がタイトな案件の場合には、翻訳のスピードを重視してチェックの工程でしっかり仕上げる方が、品質をより確保できるケースもあります。その場合は、翻訳品質の確保の責任を特定の一人が負うのではなく、役割や責任を分担し、バックアップ体制を明確にして作業を行うように工程を組み立てた方が、品質を確保しやすくなるのではないでしょうか。

    翻訳者だけでなくチェッカーやDTPオペレータもプロジェクトチームのメンバーでプロフェッショナル同士です。その中で、細かな問題に対して真摯で妥協のない建設的な議論をしてください。個々に優れた専門的な能力を持つ者同士で協力して仕上げるというプロフェッショナルな心構えが、すべての出発点になります。そして、それが高い品質の成果物を生み出す礎となるのではないでしょうか。

  • 翻訳者
  • 翻訳者は、翻訳支援ツールの機能や辞書用語を正しく使用し、用語や文章の整合性にも気を配りながら表記規則に従って翻訳を行います。その際に不明点を放置せず、しっかり調べて解決に努める必要があります。これらは下流の工程で誰かが解決しなければならない問題ですので、不明点は分からないまま放置せず、チェッカーに申し送りをすることも重要でしょう。この場合に、申し送りの数が多くなり過ぎてチェッカーの負担や確認のための時間が増大しないように気をつけてください。

    翻訳者は、翻訳コーディネータに進捗状況を随時報告し、進捗の遅延や問題が発生している場合には、速やかに指示を仰ぎましょう。

    原文資料や参考資料は常に参照し、特に本文、箇条書き、表のキャプションなどを正しく訳し分けてください。さらに、肯定/否定形の間違いや部分的な訳抜けなどは、翻訳チェック時に機械的に見つけにくいため、細心の注意が必要です。

    翻訳者は、案件を請け負っていない時でも翻訳コーディネータに頻繁に連絡を取り、受注の見込みを確認しておくことを強くお勧めします。これは個人事業者としての翻訳者の営業活動とも言えますが、これをやるのとやらないのでは請け負う翻訳分量に大きな差が出ます。そして今後受注量が増えそうな顧客の技術分野の傾向なども同時に確認しておくと、日々の専門知識の習得の指針にもなることでしょう。

  • チェッカー
  • チェッカーには、申し送り事項の確認や解決の他に、翻訳者のエラーの傾向や癖を事前に把握分析し、そのエラーの可能性を中心として優先順位を決め、効率的かつ確実に(慌てず、急いで、正確に)チェックを進めることができる状況判断力が求められます。したがって、一般的にチェッカーは、ほぼすべての領域において翻訳者と同等以上の能力を必要とします。

    しかしながらチェック自体は、チェック項目を分担して複数のチェッカーでチェックを行うことにより、効率や品質の向上を目指す方法もあるので安心してください。

    また、誤字脱字や用語の揺れの検出には、目視だけでなく校正ツールを併用するのが有効です。さらに校正ツールを複数使用することにより、エラーの検出漏れを減らすことができます。

    辞書については、時間を見つけて常に用語の登録に努め、特に校正の入った用語やキーとなる用語は必ず登録して、翻訳者にもフィードバックしてください。

    翻訳メモリは、校正内容を必ずすべて反映し、お客様製品群別に整理してまとめておくと良いでしょう。

    産業翻訳案件は実質的にすべてカスタムオーダーであるため、ルーティンワークを気にせず、お客様の要望や技術分野に合わせて、読み手に違和感を与えない訳文に仕上げることこそが、お客様の満足する翻訳品質向上の近道になるのではないでしょうか。

いかがでしたでしょうか。次回は「これから産業翻訳の仕事を志す人への進言」、さらに産業翻訳案件を発注したいお客様向けとして「高品質な翻訳サービスを受けるには、どのようなアプローチをすれば良いのか」について、お伝えしたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。またお願いします!

株式会社シュタールジャパン
ローカリゼーションユニット
プロジェクトマネージャー
有吉 常徳

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