世界の数字~小数点と桁区切り編
産業翻訳において、重要なチェック項目の一つとして、「数字」があげられます。ビジネス文書を扱うにあたり、数字を正しく表記することは当然であり、決して誤ってはいけない大切な個所とも言えるでしょう。数字が持つビジネスへの影響力を考えると、気が抜けない項目です。
その数字ですが、実は桁区切りや小数点の表記の仕方が国によって異なることはご存じでしょうか。多言語の翻訳チェックを行っていると、国によってその表記方法が異なり、さらに国によっては数パターンを併用するので、細心の注意が必要です。
私たち日本人は、通常、小数点にはドット(ピリオド)、桁区切りにはコンマを使用しますよね。わかりやすい例で言えば、「円周率は3.14です。」や「合計15,980円になります。」のように使っています。これは、中国や韓国、台湾、タイ、フィリピン、シンガポール、パキスタン、マレーシア等広くアジア圏に浸透している表記形式です。
また、いわゆる英語圏であるアメリカやイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダもこの形式を使用しています。世界共通言語である英語圏がこの形式を使用していることで、この表記を目にすることが多く、これが当たり前のように錯覚しがちですが、決してそうではありません。世界は広く、別の表記形式も多様にあるのが現実です。
日本の表記と全く逆のパターン、つまり小数点にはコンマ、桁区切りにはドット(ピリオド)の国は、実は思いのほか多数あります。わかりやすく上の例で言うと、「3,14」「15.980」という表記を使用する形式です。
こちらは、イタリアやドイツ、スペイン、ポルトガル、デンマーク、ギリシャ、オランダ、オーストリア、ルーマニア、スロベニアといったヨーロッパの多くの国々で採用されています。ヨーロッパ旅行をすれば、この形式の方が圧倒的に多いことに気づくでしょう。他にもトルコや、スペイン語圏ポルトガル語圏であるアルゼンチン、チリ、ブラジル、コロンビアといった南米の国々でも多く使用されています。
また、他には小数点にはコンマ、桁区切りにはスペース(空白)を使用する国もあります。フランスやロシア、スウェーデン、ノルウェー、チェコ、スロバキア、南アフリカなどの国々です。なお、桁区切りには、スペースとピリオドのどちらも使われているという国もあるようです。
さらにレアな形式として、一部のスイス語圏では桁区切りにアポストロフィを使用するケースや(上の例では「15’980」)、インドでは桁区切り自体が、常に3桁ごとではなくて、最初だけ3桁で区切り、それ以降は2桁ごとに区切るという変わったケースもあります。例えば、150万円は日本では、「1,500,000」ですが、インドでは「15,00,000」となるそうです。これは知らないとかなり混乱してしまいますよね。ちなみに、日本の某大手電卓メーカーは、インドでこの方式を採用することで売り上げを大幅にアップすることができたそうですよ。ビジネスチャンスは、意外なところにあるものですね。
また、同じ国でも、地域によって異なることもあるでしょうし、使用する内容や特定の分野で使い分けている場合もあるかと思います。
日本人には違和感しかない表記方法の数々ではありますが、国が違えば文化や習慣が違うのはある意味当たり前のこと。複雑ではありますが、だからこそ面白くて興味深い多言語翻訳の世界なのです。
こうした多様性を楽しみつつも、ビジネスでは間違いが起こらないように、仕向け地の表記ルールをしっかり確認しましょうね。