ポストエディットについて
翻訳業界においては近年、「ポストエディット」と呼ばれる手法を取り入れようとする動きが増えてきています。今回は、そのポストエディットの定義やメリット・デメリットなどについてご紹介します。
ポストエディット (PE [Post-Edit]) とは
翻訳業界ではながらく、「人手翻訳 (翻訳者が訳文を自らテキスト入力して訳文を完成させる) 手法が取られてきましたが、人工知能 (AI) の発達により、翻訳向けのシステム開発も進んできました。
まずは現状使われている翻訳手法を分類し、簡単にご説明しましょう。
- HT (Human Translation)
- 翻訳者が行う従来の人手翻訳です。
- MT (Machine Translation)
- コンピュータが原文の構造や用語を解析して訳文を生成する手法であり、機械翻訳と呼ばれます。機械翻訳には「ルールベース」 (事前に定義された各言語の文法に応じて単語を当てはめるモデル) や「統計ベース」 (インターネットやサンプルデータなどからの膨大なデータを参照して統計的に学習するモデル) など、さまざまな翻訳モデルがあります。その進化形がニューラルネットワーク*を活用する「NMT (Neural Machine Translation)」です。
* 人間の脳の仕組み (ニューロン間の相互接続) を参考に開発された、脳機能の特性のいくつかをコンピュータ上で表現する数学モデル。
ポストエディットとは、MTで翻訳された訳文を人間が編集するという「後工程」を加えて完成させる手法のことを言います。
ポストエディットが必要な理由
機械翻訳は原文の意味を理解して訳出する人手翻訳とは異なり、コンピュータが原文の意味を正確に理解せずに訳文を生成しています。
そのため、下記のような弱点があります。
- 細かいニュアンスが理解されない
- 文化間の違いが把握できない
- 部分的な訳抜けが発生する
- 原文のクォリティにかなり左右される
- 同じ単語で違う意味をもつ場合に正しく把握されない
このような理由から、機械翻訳を人間がチェック・修正して訳文を完成させる「ポストエディット」が必要となるのです。
ポストエディットのレベル分け
一概に「ポストエディット」と言っても、それには下記のようにいくつかのレベルが存在するため、対象文書の重要度や用途に応じてPEレベルを使い分けます。下記のPEレベル名はよく使われる一般的な呼び方の1つです。
- ライトエディット
- ミーティング用の社内資料など、単に訳文の意味が分かればよいという文書向け
(人手翻訳と比べた作業負荷:10~20%、原文の参照無し) - ベーシックエディット
- 一般的な文書など、訳文の意味が通じ、かつ読みやすい表現であるかを確認する文書向け
(人手翻訳と比べた作業負荷:50~60%、原文の参照無し) - フルエディット
- 正式発表されるプレスリリースなど、原文の意味が正確に伝わると共に読みやすい表現。また既定の用語・スタイルの統一を含めた用法が正しいかまでを原文と照らし合わせて確認すべき文書向け
(人手翻訳と比べた作業負荷:80~100%、原文の参照有り)
例1
原文 | Are you ready to bring Innovation At Every Level to your business? |
---|---|
MT訳 | “Innovation At Every Level”をビジネスでもたらす準備はできていますか? |
ライトエディット | “Innovation At Every Level”をビジネス |
ベーシックエディット | |
フルエディット |
例2
原文 | With XXX solution, ABC found the right self-healing technology to restore power to thousands of households in under a minute. |
---|---|
MT訳 | XXXソリューションで、ABCは1分とかからない数千世帯の電力を復旧する、修復テクノロジーを発見しました。 |
ライトエディット | XXXソリューションで、ABCは1分とかから |
ベーシックエディット | XXXソリューション |
フルエディット | ABC社では、XXXソリューションを活用することにより、瞬時に数千世帯の電力を復旧することが可能な自己修復型技術を開発しました。 |
機械翻訳+ポストエディットのメリット・デメリット
メリット
- 人手翻訳よりも安く/早く翻訳できる
翻訳の分量、難易度、原文の専門性などにもよりますが、ライトエディットレベルであれば、多くの場合、比較的安く早く翻訳が完成する傾向にあります。 - シンプルな文章であれば適切に翻訳できる
短文や構造がシンプルな文章の場合には適切に翻訳されやすいので、機械翻訳+PEは有効かもしれません。
デメリット
- 品質への影響
機械翻訳の品質がかなり悪い場合、それをベースに訳文を修正していっても元の品質の影響を受けてしまう場合があります。また、あまりに誤訳が多いと、誤訳を見落とす危険性もあります。 - 人手翻訳より時間とコストがかかる場合がある
機械翻訳後にフルエディットを行えば、人手翻訳と同じ品質が期待できます。しかし、最初から人手翻訳を行うよりも、修正が多くなり、かえって時間と労力がかかる場合があります。
ポストエディットを上手に使うコツ
ポストエディットは、まだまだ確立された翻訳手法とは言えませんが、使い方によっては効率性や利便性の向上が期待できる場合があります。ただし、機械翻訳は、人間の知識や経験、専門性にはかないません。そのため、品質、納期、コストのうち、どれを優先したいのかを見極めたうえで使用の可否を判断し、用いる場合はエディットレベルなどをプロと相談しながら進めることをお勧めします。